東京地方裁判所 平成元年(ワ)11836号 判決 1990年8月21日
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 原告が、東松山カントリークラブの個人正会員の地位を有することを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 被告会社(旧商号は東松山開発興業株式会社)は、東松山カントリークラブを経営するものであり、昭和三七年一一月一五日当時の代表取締役は藤生富三(以下「藤生」という。)であった。
2 原告は、右同日、藤生との間で、三〇万円の入会金を預託して右ゴルフクラブの個人正会員(会員番号一六五七号)としての入会契約を締結した。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は否認する。原告の主張する契約は入会契約でなく、会員権を担保として取得する契約である。
三 抗弁
1 藤生は、被告会社の代表取締役としての権限を濫用し、被告会社に入会金を入会する意図がないのに本件契約を締結した。原告は、本件締約時右の事情を知り又は知り得べきであった。よって、民法九三条ただし書により、本件契約は無効である。
2 原告は、昭和四四年一月一日以降、本件ゴルフ場施設を利用していず、右同日現在、原告の会員権に係る預託金返還請求権の据置期間が経過していた。よって、原告の会員権は、昭和五四年一月一日の経過により時効消滅した。被告は、本訴において、右時効を援用する。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実は否認し、法律上の主張は争う。
2 同2の事実は認めるが、法律上の主張は争う。預託金返還請求権は、退会の意思表示をしてはじめて行使が可能となるが、原告は、右の意思表示をしていないので、消滅時効は進行を開始していない。
第三 証拠<省略>
理由
一 (争いのない事実)
請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。
二 (入会契約の成否)
<証拠>によると、請求原因2の事実(入会契約そのものが成立した事実)を認めることができる。<証拠>中の、原告に発行されたものは「いわゆる担保会員券」であるとの記載は、右認定を左右するものでなく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
三 (権限濫用の有無)
<証拠>によると、原告が藤生に交付した入会金が被告会社に入金されていない疑いが極めて強い。しかし、本件全証拠によっても、藤生が被告会社の代表取締役としての権限を濫用し、被告会社に入会金を入会する意図がないのに本件契約を締結したとまではいうことができず、また、原告が本件締約時藤生が権限濫用の意図を知り又は知り得べきであったとの事実は認めることができない。
四 (時効消滅の成否)
本件のような預託金会員組織のゴルフ会員権は、ゴルフ場施設の優先的利用権と、据置期間経過後退会とともに行使する預託金返還請求権とを中核とする債権であり、消滅時効にかかるものと解するべきである。本件において、原告が、昭和四四年一月一日以降、本件ゴルフ場施設を利用していず、右同日現在、原告の会員権に係る預託金返還請求権の据置期間が経過していたことは、当事者間に争いがない(なお、<証拠>によれば、原告は昭和四四年以降会費を支払ってないことが認められる。)。よって、原告の会員権は、昭和五四年一月一日(商事債権と解するときは昭和四九年一月一日)の経過により時効消滅したことになる。被告が本訴において右時効を援用していることは、当裁判所に顕著である。なお、退会の意思表示は据置期間経過後いつでもすることが可能であり、預託金返還請求権は退会の意思表示とともに行使することができるのであるから、現実に原告が退会の意思表示をしたか否かは、消滅時効の進行に無関係というべきである。
五 よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 佐藤公美)